『ケララ秘伝
暮らしのアーユルヴェーダ』
伊藤武・田村ゆみ共著
Amazon
『アーユルヴェーダと〇〇 vol.1 パンチャカルマ基本編』田村ゆみ著
オンラインストア
スリランカ・アーユルヴェーダの旅
①「リゾート編:Jetwing Ayurveda PavilionsでDr CTスキャンの診察」
②「リゾート編:Jetwing Ayurveda Pavilions滞在日数と部屋選び」
③「リゾート編:Jetwing Ayurveda Pavilionsのトリートメント」
④「リゾート編:Jetwing Ayurveda Pavilionsの体質に合わせたアーユルヴェーダごはん」
⑤「リゾート編:まとめ」
⑥「国立病院編:Pallekele Provincial Ayurvedic Hospital 」
の続きです。
スリランカのアーユルヴェーダを覗くうえで、欠かせなかったのが土着の医療でした。
インドで、アーユルヴェーダや伝統武術カラリパヤットゥの医術などを知るうちに、
大きな病院のアーユルヴェーダと、
師匠から教わる形で継承されるアーユルヴェーダという、
2つの異なる存在を意識するようになりました。
スリランカも、きっと同じ状況。
訪れたことのない国に対して、不思議と確信がありました。
リゾートでないアーユルヴェーダ、土着のアーユルヴェーダ(伝統医療)が存在すると。
日本に住むスリランカ人に確認すると、やはり、伝統を引き継ぐ治療家が、集落ごとにいたとのこと。
その方たちの祖父母世代、110~120歳の頃は、当たり前だった医療。
無料で、西洋医学やアーユルヴェーダの病院にかかることもできる国、スリランカ。
伝統医は、次世代に引き継がれない傾向にあるようでした。
生きるために、お金が必要になる
↓
お金が目的でない伝統医にとって、厳しい状況になる
↓
継がせない、継ぎたくない
どこにでもある、時代の流れですよね。
これからの世代、継承する伝統医が減るのは、目に見えています。
現役の伝統医に会いたい!
スリランカ行きを決意しました。
スリランカに行くにしても、伝統医はどう探せばいいでしょう?
また聞き込みです。
「昔は、うちの集落にもいたよ」
「ほかの集落には、残っているところもあるはず。でも、わからない」
「田舎にはいると思う」
土地に根ざした医療のため、他集落の事情はあまり知らないようでした。
以前、日本でも同じようなことがありました。
屋久島で、お世話になっているガイドさんのお宅から、車で20分程行った漁港で、偶然お祭に遭遇。
黒砂糖で炊いたおにぎりを、ご馳走になりました。
戻って、ガイドさんに、お祭のことを話すと、
「あそこは、そういうものを食べるのね」
と、まるで遠くの世界のお話のよう。
昔は、便利な道がなく、他集落への行き来は、ほとんどなかったのだそう。
結果として、今でも、集落独自の文化や言語が残っている、ということでした。
さて、スリランカに話を戻しましょう。
どうも、ヴェダマハットゥヤーという言葉が、伝統医学を表していそうでした。
Google翻訳や想像のスペルを駆使して、シンハラ語で調査開始。
すると、ひとりの伝統医が、快く迎えてくださることになりました!
日本在住スリランカ人3名にも、おすすめの伝統医について聞きました。
すると、なんと3名全員から同じ先生が挙がりました!
それが、既にお約束を取り付けていた先生。
もう一つ気になった診療所があったのですが、連絡先がわかりませんでした。
そちらの情報をチェックしてもらったところ、
「聞いたことがない。悪い先生もいるから、誰も知らない所に行くのは危ない」とのことで、調べるのを止めました。
スリランカでのある日、伝統医を紹介してもらえることになりました。
到着した場所は、想像と違う雰囲気。
先生は、日本語も少し話しました。
「これ飲む、20日、10kg、痩せる」
「これ塗る、痛み、全部消える」
怪しげな情報が、定型文のように繰り返されました。
そして案内されたのは、先ほどの痩せるという液体や、スパイスガーデンで売られていると聞くヘアリムーバーなどが並ぶお店。
お薬とは違うとのこと。
先生に私の希望が伝わっていなかったようです。
あらためて、現地の人を診療するところを拝見したいとお願いしました。
「ここではないが、やっている」というお答え、
「骨折が多いですか?」と聞くと、
「そうだ」
「診療所にお邪魔させていただけませんか?」
「今はもうやっていない」と言われてしまいました。
本来の伝統医は、すでに途絶えてしまったのかもしれないと、ショックでした。
紹介してくださった方も、落ち込む私を見て「彼は、なにか違った?」と聞いてくれました。
思い描いた伝統医の姿を話すと、
「ちょっと待ってて!もしかしたら!!」と
車を駐めて、走っていきました。
そして、息を咳切らせて戻ってくるや
「来て!先生が来ていいって!」
と、看板もない建物の半地下へと導かれました。
暗がりの中には、サリーを身に着けた年配の女性が、患者さんを治療している姿がありました!!
女性の伝統医ヴェダハーミネーです。
ヴェダハーミネーの行っていた治療は、ケーララ(ケララ)の伝統武術カラリパヤットゥの師匠が行っている整骨治療と、とても近いものでした。
患者さんが次から次へとやってきて、先生は骨を整え、手製のお薬を塗り包帯をし、患者さんがキンマの葉に乗せた少額のお金を渡して去る。
ものの数分で、骨折治療が終わります。
わたしが思い描いていたスリランカの伝統医の姿が、そこにはありました。
喜びでいっぱいになりました。
先生の「オイルを分けてあげましょう。明日もいらっしゃい」というお言葉に甘え、あくる日も診療所へ。
そこには、治療にあたる息子さんの姿もありました!
先生の治療は、息子さんへしっかりと受け継がれていたのでした。
小さな小さな診療所。
お二人が並んで、黙々と別々の患者さんの骨を整えていく。
スリランカに来られて、本当によかった。
わたしもオイルを塗っていただき、帰りにオイルを持たせてくださいました。
先生の存在を思い出してくれた、紹介者さんに感謝!
ある日、町中で膝の炎症を抱えている方にお会いしました。
「伝統医の治療を受けていますか?」と尋ねると、
「伝統医は骨、外からのものだけなの。この炎症は内からきているから、アーユルヴェーダ」というお答えでした。
うーーーん、おかしい。
集落ごとに存在していた治療が、外傷だけなんて違和感があります。
「相談してみたことありますか?」と尋ねると、
「考えてもみなかった」とのこと。
果たして、本当にパーランパリカウェダカマの治療は、外傷だけなのでしょうか?
続いて、キャンディから車で4時間ほどのところにある、伝統医の診療所Horiwila Hela Weda Gedaraへ行きました。
こちらは、日本で事前にお約束をしていた先生の診療所です。
有名な観光地ダンブッラ石窟寺院やシギリヤロックから、一時間ほどのホリウィラ村にあります。
先生に教えの御礼をするために、途中でキンマの葉を買っていきました。(薬局で売っていたので、現地で購入可)
重ねたキンマの葉の上に、お金を乗せてお渡しするのです。
こちらの先生の場合は、机の上に自分で置きます。イギリス人の看護学生5名も学びに来るとのことで、一緒に教わることになりました。
まさか、ここで外国人と一緒になるなんて!と驚いたのですが、「アーユルヴェーダを学びたい」とオランダ人カップルもやって来ました。
どうも、国内外に知られた先生だったようです。
驚くべきは、その伝承の歴史。
31代、1500年以上と考えられるそうです。
診療と治療は、多くの場合、先生が患者さんを診察し、壁を隔てた隣の部屋にいるセラピストに、大声で施術内容を指示をする連携プレーが取られていました。
施術を見た看護学生さんたちは、
「信じられない!この包帯技術、どこで学んだの?!こんなに早くて的確なのは見たことがない」と、
驚いていました。
ヤシの葉に記された、薬のレシピや、仏像の姿は、長い歴史を感じます。ヤシの葉に記録する方法を、動画で見る(Ola leaf manuscript)≫
カニの化石と思われるもので、神経の異常を感じ取る方法もありました。
骨の治療に優れた先生は、これまで
「手術で入れたボルトを、たくさん外させてきた」とのこと。
異物を入れることで、本来持つ力が弱ってしまうようです。
骨が死ぬ・機能できなくなるといったイメージ。
腰痛の和らぐコルセットでも、長期間していると筋肉が弱り、外すのがむずかしくなってしまうような。
以前、ケーララ(ケララ)・カンヌール(カヌール)伝統武術の師匠から、
「適切な治療を受けずに、間違ってついた骨を、柔らかくして治す方法」について教わっていました。
くっついた骨は戻せないと思っていたので、とても驚きました。
こちらの施術に立ち会わせてもらっていると、どうにも、その骨を柔らかくする治療のように見えました。
戻って、先生に確認すると「そう、柔らかくしているんだよ」とのこと。
滞在先のヘリタンス・カンダラマのスタッフに、この先生のことを話すと、
「家族が治療を受けたことがある」と言いました。
「骨が柔らかくなって、すごいね!」と興奮気味に話すわたし、
「え?骨って、柔らかくならないものなの?」と不思議がるスタッフ。
この治療が存在してきたこの地域では、骨は柔らかくなる、というのが常識でした。
入院施設もあり、大勢の患者さんが入院していました。大部屋も個室もあります。
家族と共に泊まっている人も。
外に共同のトイレや洗い場がありますが、外国人が治療を受ける場合は、近隣の宿泊施設から通うと良いでしょう。
小児麻痺、腕を切断、骨粗鬆症、生まれながらの障害、サッカーで複雑骨折、変形性関節症、別で治療を受けた後遺症、側弯症、ヘルニアなど、様々な患者さんがいました。
このときも、時々空き時間がある程度でしたが、「今はお米の収穫時期。みんな忙しいから、患者が少ないんだよ」とのこと。
先生の薬局には、オイル・パウダー・ペーストなどの外用だけでなく、煎じ薬や抗生物質の役割をするタブレットなど内服薬もありました。
すべて、敷地内で先生が作っています。
目、糖尿病、喘息などの治療もあり、伝統医学パーランパリカウェダカマの治療は、外傷だけではないことが確認できました。
こちらの伝統医も、診療代いくらという形ではなく、患者さんが、キンマの葉に乗せたお金や布を渡していました。
一人いくら、この治療がいくらという決まったものはなく、お布施のような形で行われています。
情報を見つけるのに苦労したので、先生の診療所のご案内を載せておきますね。
シンハラ語通訳を手配するのがおすすめです。
名 称 | Horiwila Hela Weda Gedara |
電 話 | +94 (0)777 039 324 |
定休日 | コロンボやキャンディなどでも診察をしているため、ホリウィラにいらっしゃらないこともあります。 事前に確認してから行くのがおすすめです。 |
住所・地図 | Horiwila, Palugaswewa, Sri Lanka 診療所の入り口は、黄色いマークのある道路上です。車で向かう場合、ホリウィラではなく、パルーガスウェワと言うとドライバーに伝わりました。 パルーガスウェワに入ってからは、Google mapで曲がり角を案内するとスムーズに着きました。 |
実際にスリランカに行ってみて、日本在住スリランカ人たちに、「知らないところは危ない」と言われた理由も、いくつか見えてきました。
良い品質ばかりではないのは、アーユルヴェーダでもカラリパヤットゥでも、お寺でもヨガでも、どこも同じ。
伝統というイメージは、軽く信用しがちなので、対策してくださいね。
帰国後に、詳しい本を発見しました!
複数のウェダカマの先生や、診察、治療、薬などが、人類学の観点から、調査・研究された博士論文が元になった本です。
観点が違うので、また違うものが見えてきておもしろかったです。
ホリウィラ村の先生も、「ブッダと先祖に見守られた診療 P198」に掲載されていました!