『ケララ秘伝
暮らしのアーユルヴェーダ』
伊藤武・田村ゆみ共著
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『アーユルヴェーダと〇〇 vol.1 パンチャカルマ基本編』田村ゆみ著
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今回ご紹介する『沈黙の医療』は、スリランカで教わった伝承医療(伝統医学)についてまとめているときに出会いました。
まさに求めていた内容が詰まっていました!
スリランカの伝統医学やアーユルヴェーダに興味がある方におすすめです。
著者は、人類学者 梅村絢美さん。
スリランカの大学でシンハラ語を学びながら、アーユルヴェーダ学科のご友人と共に治療家を訪問し、まとめた博士論文を書籍化したもの。
梅村さん自ら、激痛を伴う治療を受けたり、脈診を教わったりなさっています。
不思議だったのが、このテーマです。
「沈黙」から見える世界
医療と沈黙?どういうことでしょう?
患者を診察する最中や処方箋を作る時、知識を継承する過程において、特定の言葉を発話することや、何かを言葉で表現することを拒んだりする。
AROUND INDIA 田村がスリランカに行った目的は、疑問を解決したかったから。
「スリランカのアーユルヴェーダとは?」
「ケーララ(ケララ)との違い/共通点とは?」そんな目線で覗いていたので、『沈黙の医療』の切り口は新鮮でした。
わたしにとって、アーユルヴェーダは対話が重要でした。
はじめてアーユルヴェーダの診察を受けた2008年、日本にいながらインドの先生と、オンラインのチャットを通して行われた問診によるものだったからです。
顔も見たことのない先生とのやり取りで導きだされた処方が、20年間 強い痛み止め薬に頼るしかなかった生理痛を、根本から治してくれたのです。
その後も大勢の方が、問診で処方されたお薬で良くなるのを見てきました。もちろん、問診が得意な先生であればと限定されるとは思いますが、問診の力を感じざるをえません。
しかし『沈黙の医療』には、こう書かれていました。
語らないことが、治療における重要な要素となっている
ある患者は「伝統医に対して病状を語るのは失礼」と考えており、ある伝統医は「患者が言っても聞いてない」とのこと。
これまで、脈診を用いる先生の場合、言葉より先に脈ということが多かったのですが、語ってはいけないとは思っていませんでした。
日本でも、言霊(言魂)とか忌み言葉とか、受験生に使わないように気をつける言葉、結婚式のスピーチで使わない言葉など、身近に存在していますよね。
スリランカでは、持っていない人が持っている人に対して言葉を発することが、カタワハ(口の毒)になると考えられているそうです。
著者が、好きなフルーツが実る木を見て「大きな実がついたわねぇ」と発言すると「カタワハである」と注意されたのだそう。
たとえ嫉妬・悪意・羨望というマイナスの感情がなくても、そのフルーツが存在していない国で生まれ育った著者が発したことが問題となると。
独身女性が新婚女性に「あなたって本当にきれいね」というのもカタワハ。
わたしは「アーユルヴェーダのものや薬草などが、すぐに手に入れられるのいいな」「うれしいな」「おいしいな」と、言葉で伝えていました!
どれだけのカタワハを発していたことか…。
アーユルヴェーダの診察や治療を受けた方々から、こんな相談を受けることがあります。
「(医師もセラピストも)説明してくれなかった」
「ドーシャチェックをしてもらえなかった」
言葉にしないことによる、不安や意思疎通の欠如です。
しかし『沈黙の医療』には、言葉にすることで治療効果が衰えると考えられたり、病状が悪化するのを防ぐと考える伝統医の発言が書かれていました。
ある伝統医は、親から教わったときに「これは言葉に出さないように」と注意を受けたとのこと。
患者も、代々治療を受ける心得を伝えてきているのかもしれません。
言葉以外の方法で伝えることに重きをおいているという見解が、とてもおもしろかったです。
次回のスリランカでは、この点についても観察してみたいと思います。
沈黙を重要と考える世界で、Dr CTスキャンの診察を詳細に言語化するのは、異端なことかもしれません。
Dr CTスキャンの診察については、スリランカ・アーユルヴェーダの旅①「リゾート編:Jetwing Ayurveda PavilionsでDr CTスキャンの診察」をどうぞ
実際スリランカに行ってみると、どちらも医療として存在しているものの、アーユルヴェーダと伝統医学ヘラウェダカマは別の物だと感じました。
この違いは、インドのアーユルヴェーダの中でも、南インド・ケーララ(ケララ)は特殊であることと似ています。
疑問の答えを探りました。
「スリランカのアーユルヴェーダとインドの違いはなんですか?」
先生方からの返答は、
「スリランカのアーユルヴェーダは、インドのアーユルヴェーダとスリランカの伝統医学を合わせたもの」
もしくは、
「インドのアーユルヴェーダと、スリランカの伝統医学ヘラウェダカマと、仏教が合わさったもの」
とのことでした。
実際にアーユルヴェーダを受けてみると、南インド・ケーララ(ケララ)のアーユルヴェーダとの大きな違いは感じませんでした。
「実際に、伝統医学のどのような部分を取り入れているのでしょうか?」
と質問すると、インドでアーユルヴェーダを学んだ先生方からも、はっきりとしたお返事はいただけませんでした。
質問の仕方を変えました。
「取り入れているのは『伝統医学で使われてきた固有の薬草や処方』または『伝統医学の理論や考え方』ですか」
しかし、お答えは
「そういうことではない」
Dr CTスキャンに、スリランカ独自のアーユルヴェーダを学べる本の入手を相談したときも
「(そんな本は)ありません」
というお答え。
モヤモヤ。不思議でなりません。
「ドクターもセラピストも、スリランカのアーユルヴェーダには、伝統医学パーランパリカウェダカマが入っていると明言する。でも、何がどのように取り入れられているのかは、誰も示してくれない」のです。
しかし、この疑問は『沈黙の医療』を読んだらスッキリ解決しました。
スリランカのアーユルヴェーダには2つの流れがあり
1961年にアーユルヴェーダ法を施行するときに「アーユルヴェーダには、パーランパリカウェダカマ、シッダ、ユナニを含む」と規定したという歴史もありました。
アーユルヴェーダという言葉に、そもそもパーランパリカウェダカマが包括されていたのです。
(シッダとユナニが含まれていると言う方はいませんでしたが‥)
このことが「そういうことではない」と言われた理由だと思いました。
スリランカの人・暮らし・医療・文化・信仰など、様々な面で勉強になりました。
『沈黙の医療』、ぜひ読んでみてくださいね。
AROUND INDIAが訪ねたHoriwela Hela Wedakamaのアナンダ先生も出ています。
アナンダ先生については、こちらをどうぞ ≫スリランカ・アーユルヴェーダの旅⑦「伝統医学編:パーランパリカ・ウェダカマ Paranparika Wedakama 」|キャンディとアヌラーダプラ